みぞみぞします

他界隈に足を踏み入れたら多分人生に影響した

 「その日」は今から約一年前、現役で大学受験に失敗し予備校での浪人生活が決定した月に突然訪れた。当時の私はゴリゴリの韓ドルオタクであり、隣国のアイドルやラッパーの曲を日々聴き漁りなんなら外国語の曲しか聴かない自分を高尚な人間だと思い込んでいた程"ヤバい奴"だった。「その日」、あと一年受験勉強をしなくてはならないことに感傷的な気分になっていると、固定的な趣味を持たないキラキラ女子大生の姉から「この曲いいから聴きな」と半ば強引に音楽を再生される。

   

それがDISH//との、"意思を持たない"出会いでした…

f:id:thewhaleinthepool:20200319172203p:image

 

  邦楽ミーハーな姉はDISH//が何者かを知ってはいなかった。ただこの曲「猫」は当時社会的旋風を巻き起こしていた歌手「あいみょん」提供の楽曲であり、また学生の間で流行っていたドラマ「僕たちがやりました」通称"ぼくやり"の主題歌のカップリング曲でもあったことにより、ひょんなことから姉は知ったらしかった。

  

   …君がいなくなった日々は

      面白いくらいにつまらない

      全力で忘れようとするけど

      全身で君を求めてる

      猫になったんだよな君は

      いつかまたあの声を聞かせてよ

      矛盾ばっかで無茶苦茶な僕を

      慰めてほしい

 

なんだこれ。涙が出た。おか、お母さんティッシュ取って…

その時の精神状態も影響していたのだろうが、母国語の音楽はこんなにも胸にストンと入ってくるのかと、この世に生を受け18年、まさかの新しい発見だった。切ないが力強い歌声。言葉が出なかった。まさに感無量。 それまで韓国語の音楽を聴いていた時は翻訳なしでは何を言っているのかわからなかったが、それでも好きな曲の歌詞を検索して意味を理解しては涙することも多々あり、その度に「音楽」に元気付けられてきた。回り道をして音楽を自分なりに楽しんでいた。

 

  この曲自体に惹かれたのは言うまでもないのだが、それ以上に私はこの曲を歌う声の主、どこか切ない歌声の持ち主、そう、"DISH//北村匠海さん"に、一瞬にして惹かれてしまった。俳優としても活躍する北村匠海さん。勿論名前は存じ上げていたが音楽活動をしていることは知らなかった。

 

   そもそも私は物心ついた時からアイドルというコンテンツが好きであり小学生の頃はAKB、中学生の頃はハロプロ、そして中学2年生から高校3年生までK-popを"コンテンツ追い"していた、生粋のオタクだった。新たな推しを見つけた時に取る行動というのは大体決まっており様々なSNSを駆使して基本情報検索から出演作品の拝見、出ている全ての曲のダウンロードや視聴、過去の投稿からSNSの使い方を探るなど、まあ様々ある。全てやった。ぶっちゃけ多すぎて終わりがなかった。そして一通りしてから気付く。

 

  日本の男性アイドルを推すの初めてなのでは?と。

 

  そう、初めて足を踏み入れる界隈なのである。  "スタダ界隈"があるのは知っていたし実際スタダの他グループを仲良しのオタクに布教されたこともあった。ただそれまでの私は他界隈への興味など0に等しく右から左へ受け流すムーディー勝山をキメこんでいたし、印象といえば所属アイドルの顔が良いことと理事長の存在、そしてライブ会場での原色の洪水という印象しかなかった。

 

いろんなアイドルのオタクをやってきたと言ってもとりあえず高校三年間はほぼ一貫して…まあ一度BOYS AND MENにハマった時期も無かったわけではないが、ほぼほぼ一貫して一つのアイドルグループが好きだったということもあり、新たな界隈に足を踏み入れるのには勇気がいる。だが好きになってしまったものはもうどうしようもないので、周りのスタダ有識者のオタクたちに正直に感情を吐露しスタダのアレコレについての刷り込み教育を受け、無事だいすこ…になっていったのであった。改めて周りのオタクたちの優しさに触れた。

 

   そこからの私は例の如く色々早かった。と、言いたいところだが先にも述べたようにそれからの一年、私は実質無職の身分であり、「いやいや、河合塾は学校法人なので学割使えますからWWW」などとイキリ散らかすような模範浪人生の生活を余儀なくされた。「時間はあるが金はない」というオタクとして最も最悪な状態だった。夏にはオーキャンと称して東京旅行を挙行したりもしたが、当然高校生の時にしていたようなライブ遠征など出来る筈もなく、当時の私に思いつく"出来ること"と言えば俳優北村匠海さん出演の映画の前売り券を購入し観に行くことくらいだった。

 

  …そんなクソッタレだった生活に、一瞬光が差すことになる。DISH//がリリースしたJunkfood Junctionというアルバムのリリースイベントが地元で開催されることが決定したのだ。約3000円のCDを買えば好きなメンバーとのツーショット撮影、約2000円のCDを買えば好きなメンバーからトレカを手渡しして頂けるという内容のものだった。 

  え、やっす…… いいんすか、逆に… 

もう色々お安い御用だった。当時好きだった別の韓国アイドルグループはCDを何十枚購入してもサイン会の抽選に外れることなどザラにあった。抽選でもなく、金を払えば確実にイベント参加の権利を得ることができるという事実に顎が外れた。ハロオタ時代のことを思い出した。

 

   とはいえ私は接触現場主義というよりもライブ至上主義のオタクであり、自分が顔の整っている好きなアイドルを目前にすると挙動不審になってしまい伝えたいこともろくに伝えられないキモオタであること、そしてできれば自分の姿をアイドルの目に入れたくないことは長年の経験から痛いほどわかっていた。遠巻きに見ていたい、生まれながらにして思考がモブなのである。だがこのチャンス…これを逃すともう… 今後の浪人生活で受けるストレスを鑑み、怖いもの見たさの好奇心で1セットずつ申し込んだのだった。

 

   そして迎えた当日…なんだか言い回しがプロ野球の実況のようになってしまったが、当日予備校での授業をこなし指定の時間まで自習室で粘り、重い参考書などは全て予備校に置き、"向かった"。セックスインザシティのあのシーンさながらにザッザッ…と、勿論一人で。

   会場に着いたが、周りのオタクのことなど全く記憶にない。なんとなく怖そうだな…地方だからドンとか居るんだろうか…とは思っていたのだがすぐそこにオールマイティー天才太郎の北村匠海さんがいるという事実の尊さからもう何も考えられなくなってしまった。会場に入り混じる香水の良い匂いしか覚えていない。

   そして無事ツーショットを撮り太郎からトレカも受け取り、いろんな意味で"終了"した。ちなみに当時の現場レポがこちらです。

f:id:thewhaleinthepool:20200320003101j:image

 

    そんなこんなで予備校に戻り、イベントに参加したのは正解で本当に気分が良くなったことも再確認し、その後はまあ適度に勉強をしつつ、茶の間オタクをしていた。

 

   夏に東京の大学巡りも遂行し(ほとんど買い物をしていたが)、なんとなく自分は関東の大学に進学するのだろうと思っていた。正直明確な意思を持って浪人したというよりは現役のときに私立を一つも受けていなかったのでやむを得ず…という感じで、目標というのが当時の私には欠如していた。

 

   そんなこんなで秋、いつも通り勉強の合間に北村匠海さんの名前でエゴサーチをしていると(おい)、「キミスイのロケ地は〇〇大学!?」の文字。

 

クリックをすると「滋賀大学」の四文字が。

 

  あー、滋賀大…知り合い行ってるよなぁ…ふーん、キミスイね…面白いよね、綺麗だし…あっ、講堂確かに見たことあるわ、綺麗だね…ほう…聖地巡礼…え、四年かけて…?…ふーん…へぇ…

 

 

    ……目を覚ますと私は、滋賀大学経済学部からの合格通知書を手にしていた。